・ あごが腫れた・・・
どれほどたったろう。アルマイトはうっすらと目を開けた。辺りはすっかり闇に沈んで、耳にすすり泣く声が聞こえる。アルマイトは必死に呼びかけようとするが、うめき声にしかならない。
「ウ……ァ……」
その声が聞こえたのか、すすり泣きが止んだ。やがて、視界にサリーの顔が入った。暗くてよく分からないが、まぶたが腫れ上がっているようだ。必死に謝っている。
「ご……ごめんなさい」
アルマイトは喋ろうとするが、口がうまく動かない。手足も痺れて、起きあがることができない。その時だ。
「どうしたの」
階段の下から、女性の声がしたかと思うと、小走りに階段を駆け上がる音がした。
「まあ!」
学校保健士のダリヤ・ハルカニだ。オレゲナの若い女性で、いつも優しく手当をしてくれることから、生徒にも慕われている。
柔らかい手が、アルマイトのあごに触れた。苦痛で顔を歪めるアルマイトを見て、顔を曇らせる。
「保健室で手当てしましょう」
ダリヤは、アルマイトの肩に手を回すと、立ち上がらせた。しかし、サリーはそわそわと窓の外を見ている。
「ちょっと待って」
サリーは思い詰めた表情で言うと、階段を駆け下りた。
ダリヤはひとまず、アルマイトを保健室へ連れていった。医療キットの検査では、全治3日の打撲という結果が出た。湿布を貼りながら尋ねる。
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・ パジャマのサリー♪
風呂もすませ、ほとんどの子供たちは寝室に引き上げていた。アルマイトも、自分のベッドに入っていたが、お腹が空いて眠れない。その時、寝室のドアが開き、サリーが顔を見せた。アルマイトの側に来ると、静かに呼びかける。
「一緒に来て」
いぶかりながらも、アルマイトは起きあがった。
サリーが向かったのは、二階の食堂だ。手にはさっきの本が握られている。
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・ サリーの宇宙
ダリヤは絆創膏を手に貼り付ける。その時、保健室の扉が開き、サリーが入ってきた。
「ケガ、大丈夫?」
心配そうな表情とは別に、アルマイトは彼女の手元に握られた本に目がいった。
「かすり傷だよ。それより、試合見てたんだ」
「うん。あのゴール、すごかったな」
「ありがとう。ところで、その本は」
アルマイトの問いに、サリーは本の表紙を見せた。『宇宙図鑑』と書かれている。
「今夜一緒に見ない?」
「ああ」
楽しそうに話す二人を、ダリヤは笑顔で見守っていた。
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